GEOGRAPHICA

夏の観劇

2023/08/19 | スタッフの日常

8月19日 大曲 美生

こまつ座『闇に咲く花』を観劇してきました。
劇作家井上ひさしの昭和庶民伝三部作といわれる三作品のうち、第二作です。

お話の舞台は第二次大戦終結後の1947年、神田の愛敬稲荷神社。
本堂も宝物殿も焼け落ち、神楽堂しかなくなってしまった神社には、
近所の戦争未亡人の女性たちが集まっておめん工場を営み、
ときに神主さんとともに知恵を働かせて闇米を手に入れたり、助け合いながら貧しくてもたくましく生きています。
そんなある日、戦死したと思われていた神主の息子が突然帰ってきて、
戦前からその才能が期待されていた野球選手としてまた新たに歩み出すことになります。
みんなに希望の光が差しはじめた矢先、
GHQ法務局の職員がやってきて、息子にC級戦犯の容疑がかかっていることを知らされる…
そんな悲劇の物語です。

戦争は1945年8月15日にスパッと終わったわけではなく、
庶民の戦いや悲しみは続いていたこと、
悲しみや怒りや、やるせなさをどんな人も内に抱えて生きていた時代があったということ。
残酷な結末をわかっていながら戦争に向かっていかざるを得なかった、
日本人みんなの過ちが深い闇となってどんな人の心にも影を落としていたこと。
忘れてはいけない事実を、リアルに目の前に突きつけられたような衝撃がありました。

毎年、夏は戦争というテーマに誰もが思いを巡らす季節ですが、
その大きなテーマに飲み込まれてしまいがちな、
庶民一人ひとりが生きていく中にある記憶、葛藤、後悔、覚悟、諦め、希望、
いろんな小さなテーマを丁寧に扱っている、非常に意義深いお芝居でした。