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『ユートピアだより』

2018/12/14 | スタッフの日常

12月14日 中野美穂

数年前に新訳版が出版された、ウィリアム・モリスの『ユートピアだより』。
ずっと気になっていたのですが、最近ようやく読む事が出来ました。
日本ではテキスタイルデザインで有名ですが、実は多くの小説作品も残しているそうです。

『ユートピアだより』もその一つ。
資本主義から解放された近未来のイギリスに、主人公が迷い込むストーリーです。
その社会ではすべての人々が経済活動から解放され、貨幣経済は過去の悪習と見なされています。
自らの喜びのためだけに働く彼らは、誰もが皆、生き生きと光り輝く美しい存在で…。
社会主義者でもあったモリスですが、彼が夢見た理想の世界を垣間見る事が出来た気がします。

また、作中で「朝のんびりしていたせいで、鳥にイチゴを盗られてしまった」という場面が登場するのも
面白いところ。
モリスは本当にこのエピソードが好きだったんだなぁと、思わずクスリとしてしまいました。

巻末の数十ページに及ぶ訳者解説も読み応えがあります。
原題の『News from Nowhere』をいかに訳すか、詩人としてのモリス、職人としてのこだわりなどなど、
これだけでウィリアム・モリスの人物像に触れる事が出来ました。

作品集と併せて、もう一度じっくり読みたい一冊です。